君と、美味しい毎日を
09.桃の缶詰
「あー、久しぶりに皆に会えて楽しかったな。 飲み過ぎて、酔っ払った〜」

「遅れて参加したくせに誰よりも飲んでたもんな、お前」

「そうかも! あそこの焼き鳥美味しくて、お酒が進むんだもん」

瑶は珍しくハイテンションだ。
本人の宣言通り、かなり酔っているんだろう。

「マミちゃん、最近彼氏が出来たんだってね。 聞いた?」

「うん、思いっきり自慢された。おまけに俺の取り柄は顔だけだって暴言吐かれた」

「・・・それは暴言じゃなくて、真実って言わない?」

「・・・ソウデスネ」

俺の拗ねたような顔に、瑶は屈託なく笑った。

社会人になって、瑶は昔よりよく笑うようになった。




『白咲先輩と付き合ってるんですか?』

『いや、ただの友達』

『ふぅん。相変わらずヘタレですね』

『マミちゃんは相変わらず厳しいなぁ』

『白咲先輩、すごく綺麗になりましたよね。
いつまでものんびりしてると、他の男に持ってかれますよ?』


顔しか取り柄のない昴先輩よりいい男なんて、いっぱいいるんですからねっ。

ま、私としては一度くらいは振られる側になってみろって気持ちもあるので、それはそれで楽しいですけど・・・。

そう言って、可愛い顔でニッコリと微笑んだ。


小悪魔そのもののマミちゃんは、せいぜい頑張ってくださいね と言い残して、迎えに来ているという彼氏のもとへ去っていった。


ーーたしかに、色んな意味で真実だな。



「ねぇ、ねぇ。 酔い覚ましにコーヒーでも飲んでかない?」

駅前の緑色の珈琲チェーンの店先で瑶が立ち止まった。
もう随分遅い時間なのに、店内には大勢の客がいた。


「コーヒー飲みたいんじゃなかったの?」

瑶の前にはアメリカンサイズのチョコケーキとホットの紅茶が乗ったトレイが置かれている。

「ケーキには紅茶かなって・・」

「それはどっちでもいいけどさ。
あんだけ食ってケーキって、すげぇな」

「お酒のあとって無性に甘いもの食べたくなるんだもん」

瑶はパクパクとフォークを口に運ぶ。
俺はアイスのカフェラテに口をつける。


「そういえばさ、昴って紅茶嫌い?
絶対にコーヒーしか頼まないよね」


別に紅茶は嫌いじゃない。

俺が飲めないのは・・・



「もしかしてさ、トラウマになってる?
レモンティー」


ーーぶっ。


俺は思わずカフェラテを吹き出しそうになって、あわてて飲み込んだ。


「・・・・・」


「図星だ」


俺にとって、レモンティーは昔の日記みたいなものだ。
読み返すのも恥ずかしい、後悔のかたまり。


「今さら、ごめんなさいって言うのはなしだよな?」

「なしだよ。一度はぐらかしたくせに、ほんと今さら」


「・・・ごめんなさい」

「ふふっ。冗談だよ。
元々、怒ってなんかないし。

昴が紅茶を飲まない理由ってなんかあるのかなーって気になってただけ」





































































































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