君と、美味しい毎日を
うつら、うつらと浅い睡眠に入っていたところにインターホンが鳴った。

無視しようと思ったけど、何となく予感があってベッドから身体を起こした。



「やっぱり、酷いんだ。 すぐ食べれそうなものとポカリ買ってきたよ」

瑶がスーパーの袋を下げて、怒った顔して立っていた。

「帰れ」

「うつらないから大丈夫だよ。
私はあんまり風邪ひかないし!
体調悪いときくらい素直に甘えなさい」

瑶はいつになく図々しく、部屋に上がりこんできた。


「おかゆ、作ったら食べれそう?」

「悪いけど、たぶん無理」

「じゃあ、これは?」

瑶が見せたのは桃の缶詰だった。

「なつかし・・。子供の頃、風邪ひくといつも親父が買ってきてくれたな」

「そうなんだ。 私は元気な時でも食べてたな〜。 美味しいよね。

おじさん、元気にしてる?」

「相変わらずみたい。俺らとそう変わらない歳の彼女がいるよ。

お母さんは最近は?」

「こっちも相変わらず、仕事第一よ。
とうとう自分の事務所を立ち上げてバリバリやってる」

俺達は顔を見合わせて、苦笑する。

瑶が裁判所で働いているのは少なからず弁護士の母親の影響なんだろうな。


瑶がシロップ漬けの黄桃の入ったガラスの器を俺の前に置いた。

「召し上がれ」

「なんだ。食べさせてくんないの?」

「甘えないでよ」

「さっきは甘えろって言ったくせに」


桃は熱い口内をひんやりと冷ましてくれた。
ふんわり広がる甘い香りと味が痛む喉にも心地よい。

「たしかに瑶は元気だよな。 風邪ひいたとこ、見た事ない」

「ないわけじゃないけど・・でも、中学・高校は皆勤賞だったよ。
昴は結構、病弱だったよね」

「俺は美少年だったから、いいんだよ」

「はいはい、性格悪い美少年だったね」


もう寝なさい と瑶はお母さんのように言って、布団を掛けてくれた。

俺は母親にそんな事してもらった記憶が一切ないので、なんだかくすぐったい。



瑶の手にそっと、自分の手を重ねた。


「起きるまで、側にいてよ」



熱で朦朧としてなかったら、こんな素直な気持ちはきっと言えなかっただろう。


「いいよ」

優しく響く瑶の声を聞きながら、俺は深い眠りに落ちていった。



側にいてよ。

瑶、ずっと俺の側にいて。














































< 22 / 28 >

この作品をシェア

pagetop