イジワル社長と偽恋契約
祝福と不幸

出会いは突然に

「それでは…新郎新婦の入場です」


都内の某有名ホテルの披露宴会場が薄暗くなり、登場口をスポットライトが照らされると会場にいる50人足らずの人達は一斉にそこに注目する。

私は会場の一番端の友人席に座り、一人切ない気持ちを押し殺しながら淡々と拍手していた。




三井 妙(みつい たえ)

28歳。

独身。

今日は大学時代友人で親友の香苗(かなえ)の結婚式に出席している。


友人が結婚するのはこれで何度目だろう…

もう何人もの友達に御祝儀や結婚祝いを送って来た私だから、親友が結婚するからといって今更どうってことないのだけど…

香苗の結婚は私にとってダメージが大きなものであった。






「わー!」

「香苗~」

「綺麗!」


可愛らしい花の付いた純白のウエディングドレスを着た香苗が、新郎の腕に手を添えて登場口から出てきた。

会場は大きな拍手に包まれて、香苗は新郎と顔を見合わせながら幸せそうに笑う。



私は香苗の顔を見た後で新郎の方に目を向けると、胸の奥がキュっと締め付けられて苦しくなる。


彼は竹内 遥也(たけうち とおや)。

遥也も私と同じ大学で香苗を交えて仲が良かった友人の一人。

甘いルックスで頭が良くて性格も優しかった遥也に、私は密かに想いを寄せていた。

でも遥也はいつも香苗を見ていた。

私の恋は最初から一方通行だったのだ。



お互いの気持ちを確認すると2人はすぐに交際を始め、

大学卒業後、遥也は大手企業の営業部に就職。


エリートコースに乗ったのか今は若くして係長に。

仕事の成績もかなりいいらしく、そんな話を香苗から聞いた私は、遥也なら仕事をうまくこなすタイプだし当然な結果だろうと密かに思っていた。


一方香苗は学生時代からバイトしていたおしゃれなイタリアンレストランの社員になり、そのすぐあとに2人はゴールイン。

私は見事に失恋したのだ。






「ぷはぁー…」

「妙ったら飲み過ぎじゃない?」


二次会の会場は都内のオシャレなBARで、私はさっきからシャンパンをヤケ飲みしていた。

私を心配そうに見つめるのは友人の真希(まき)。

彼女も同じ大学で仲が良く、私の遥也への密かな気持ちを唯一知る人物でもある。





「まあ、飲みたくなる気持ちもわかるけどさ」


真希はそう言ってシャンパンを一口飲むと、向こうでカラオケのデュエットをしている新婚の竹内夫婦に目を向けた。
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