王子様はハチミツ色の嘘をつく
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カーテンの隙間から差し込む柔らかい朝陽の中、僕は美都より先に目覚めて彼女の寝顔をずっと見つめていた。
ときどき髪や頬を撫でると、くすぐったそうに身じろぎしてまた眠りに落ちる。
昨夜何度も見せてくれたの悩ましげな表情と、今の無防備な寝顔とのギャップに胸がときめいて、朝から襲いかかりたくなってしまう。
……しかし、これから仕事だ。あまりゆっくりもしていられない。
名残惜しさから美都の唇に短いキスをすると、彼女のまぶたがぴくりと動いて、うっすらと瞳が開く。
「おはよう……ございます」
はにかみながら言う美都が可愛くて、僕はベッドの中で彼女を抱き寄せると意地悪くささやく。
「おはよう。やっぱり声が掠れていますね、昨夜あんなに――」
「そ、んなことないですっ! ほら、聞いて下さいこの美声!」
慌てて咳払いしながら「あー、あー」と発声練習する美都に笑いがこぼれてしまう。
思えば、こんなに穏やかな気持ちで迎える朝は初めてかもしれない。
いつも仕事に追われて、たとえ忙しくない時期であっても、頭の中には常に会社ことが気になっていて、心から休息できることなどほとんどなかったから。
今も会社のことを忘れているわけではないが、美都が隣にいるというだけで、心が落ち着くから不思議だ。
「美都」
「……はい?」
きょとんとする彼女の頬に手を添えて、その瞳をまっすぐに見つめると、僕は噛みしめるようにゆっくりと言葉を紡いだ。
「僕の初恋を成就させてくれて、ありがとう」
僕にそんなことを言われるとは思いもしなかったのか、意外そうに目を瞬かせる美都。
けれどすぐにうれしそうな微笑に変わって、コクンと頷いた。