王子様はハチミツ色の嘘をつく


廊下に出ると、ポケットからスマホを取り出して静也さんに電話をかけようとしたけれど、充電が切れそうだった。

……しょうがない。途中で切れてもいやだし、直接呼びに行こう。


そうして静也さんの控室へ向かう途中、ふと誰かに後をつけられているような気がして、足を止めて後ろを振り返ってみる。

おそらく私の考えすぎで、そこには誰もいないっていうパターンだろうとたかをくくっていたら、そこにはある女性がばっちり私を睨みながら立っていた。


「……若菜さん」


今日のパーティーには本社勤務の社員が全員集められているから、彼女がここにいてもなんら不思議はない。

でも、たぶん私に何か話があるんだろう。鬼気迫る顔つきで、ずんずんこちらに迫ってくる。

そして目の前でぴたっと止まった彼女にびくりと体を震わせ、何を言われるんだろうとあれこれ考えていると。


「芹沢さん。ちょっと、ホテルの人に確認するように頼まれていることがあるんです」


急に、若菜さんの吊り上がっていた目元が頼りなげなものに変わり、私にそう告げた。


「頼まれていること……?」


なんだろう。社長を呼ぶ前に確認しておいたほうがいいのかな。あまり時間がないけど、少しの間なら……。


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