王子様はハチミツ色の嘘をつく
【わかった。そのうち帰るねってお母さんに伝えて】
そんなメールを打つと、私はスマホをヘッドボードの上に戻した。
用件は済んだしもう返信はないだろう。そう思って再び横になろうとしたのだけれど、すぐにスマホが震えてメールの着信を知らせた。
手を伸ばしてスマホを手にすると、メールはは案の定浩介からのものだったけど、私はその内容に憤慨してスマホを布団の上に放った。
【こんな時間に起きてるなんて、もしかしてやっと男できた? 二十代のうちに処女喪失できてよかったね♪】
……いくら弟とはいえ、なんて失礼かつ下品なことを!
確かに、こんな時間まで起きているのは、ある男性のせいだけど……生憎まだ処女です!
なんて、ちょっとむなしいセリフを心の中で叫んでいると、突然寝室の扉が開いて社長が姿を現した。
チャコールグレーのパーカーにハーフパンツ……ラフなのに、彼が着るとそれすら王子っぽい。
……ていうか、もしかして私の来てるのと色違い? は、恥ずかしい……。
「まだ起きていたんですか」
シャワーを浴びて来たのか、少し濡れた前髪をかき上げながら部屋に入ってきた彼が、ベッドのふちに腰かける。
持っていたスマホを充電器に繋いで、それから布団をめくって私の隣にさりげなく入ろうとするので、慌てて距離を取ろうと身体を動かす。
その瞬間、布団の上に置いたままだった私のスマホが布団からずりおちそうになって、社長がそれをキャッチしてくれた。