海は悲しきものがたりいふ
唯この我をあざけりたまへ
11月、彩瀬の高校で、受験生向けのオープンハイスクールがあった。
2日間開催され、中学校によって参加する日が決められているのだが、私は両日参加した。

1日めはちゃんと受付を通して、同じ学校の子たちと一緒におとなしく一通り見学。

翌日は、学校を昼からサボって少し落ち着いた私服に着替えて、保護者も合流する授業見学から紛れ込んだ。
生徒の母には見えなくても、親戚か姉妹には見えるだろう。

「あー!」
……廊下で後ろから彩瀬に叫ばれたところを見ると、あっさりバレたみたいやったけど。

彩瀬のクラスは教室移動だったらしく、すぐそばに頼之さんもいた。
「おもろいやつ。」
そう言われて、私は頼之さんを睨みつけてから、彩瀬に近づいた。

「来ちゃった。彩瀬に会えてめっちゃラッキー♪」
開き直ってぴとっとくっついてそう言うと、彩瀬は苦笑した。

「怒られるよ。バレないうちにちゃんと帰るんだよ。」
「えー!一緒に帰る!6時間目終わったら!ね?」
私が、いやいや!して、そうおねだりすると、背後から頼之さんが余計なことを言った。

「授業見学の後は、部活動見学だろ。サッカー部、見に来いよ。あおいに頼みたいこともあるし。」
「興味ないし~。てか、中学生相手に頼み事とか、恥ずかしいし~。」
あからさまに態度も口調も変えて、頼之さんにそう言った。

「あー!お行儀悪いよ。」
彩瀬に窘められて、私は口をつぐんで、ぷいっとそっぽを向いた。

「小門くん、妹が、ごめんね。」
だからどうして彩瀬が謝るの!

「いや。むしろ俺も楽しんでるし。てか、吉川、猛獣使いやな。」
頼之さんはニヤニヤ笑ってた。

「……ほんとだ……仲いいんだね。」
彩瀬の笑顔と声に、微妙なものが混じった。

頼之さんの目が一瞬鋭く輝いたけど、すぐ笑顔になって彩瀬の肩を叩いた。
「行こうか。遅刻する。……俺はあおいと違って真面目な生徒なんでね、邪魔すんなよ。」
後半は私をからかうような口調だった。

「あー。後でね。終わる頃、サッカー部に迎えに行くよ。」
……彩瀬の馬鹿ぁ。
少し歩いてからこっちを振り返った彩瀬の顔は天使のように美しく清らかで、頼之さんの顔は悪魔のように意地悪な笑顔に見えた。

たいして面白くも難しくもない授業を見学した後、私は渋々サッカー部へと向かった。
いかにもサッカー大好なおこちゃま男子中学生と、ボールより男に目が釘付けの色気づいた女子中学生で賑わっているようだ。

あかん、耐えられへんかも。
この中に入りたくない。

私は、じりじりと後ずさりしてその場から逃れようとしたけれど、背後から両肩をがっちり押さえつけられてしまった。

振り返るまでもなく、頼之さんだろう。
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