海は悲しきものがたりいふ
ひたふる君を恋ふとつげまし
ふと目覚めたのは、夜中の3時。
お台所、片づけなきゃ。

体の中心部がだるくて重くて、私は体を起こすのもつらかった。
私が動いたことで、彩瀬も目覚めたらしい。

「あー。」
静かに私を呼んだ彩瀬の目は、さっきとは別人で……冬の月の光に蒼く澄んでいた。

「彩瀬。身体、つらくない?」
……処女を散らされたほうが聞くのもナンだけど、心配なのでそう聞いてみた。

彩瀬は私の両脇に腕を差し入れて抱き寄せた。
「頭が割れそうに痛い。助けて。」

胸が甘く疼くと同時に、体の奥深くが疼いた。
彩瀬のことが愛しくてしょうがない、ということだろうか。

私は彩瀬の額やこめかみ、まぶたに口づけを続けた。

背中に電流が走る。

……さっきのはなかったことにして、これが初体験ということにしようかな。
そう思いたいぐらい、今度は優しく丁寧に愛された。
心も体も、幸せに満ち満ちていた。

……いいや、もう、何でも。
彩瀬が優しく愛して求めてくれるのがうれしい。
それだけ。

しかし、それで終わりではなかった。
今度こそお台所を片付けに行こうと立とうとしたけれど、彩瀬は私を放そうとしなかった。
「行かせないって言ってるでしょ。逃げちゃ、ダメだよ。」
そう言って、チュッと唇に唇を合わせるだけのキスをすると、また組み敷かれた。

……やっぱり血の香りがする。
「逃げへん。離れへん。てか、彩瀬のほうこそ、私を突き放さんといてね。ずっとそばにいてね。」

上からポタポタとしずくが降ってきた。
彩瀬の涙。

「綺麗。」
私は手を伸ばし、彩瀬の涙を指ですくい払った。

「……あー。怒らないの?こんな……無理やり……」
彩瀬はいつの間にか正気に戻ってるようだ。

「何で?ずっとずっとずーっとこうしてほしかったのに。怒る理由、ない。うれしい。」
ぎゅーっと力を入れて抱きしめ合う。
「……でも、また彩瀬に突き放されたら……今度はもう耐えられないかな。」

そうつぶやくと、私の目から涙がすーっと流れ落ちた。
後から後から続く涙。
「ほら。彩瀬に嫌われたらと想像したら、涙、止まんない。ね。」

ぽろぽろぽろぽろ。
金平糖のようにこぼれ落ちてく。

「あー。ごめんね。もう、僕も、無理。あーを手放せない。誰にも渡せない。ごめんね。」
彩瀬はそう言って嗚咽した。


結局、彩瀬は朝まで私を抱いていた。
見つめ合いながら、今までできなかった話をいっぱいした。
はじめて、彩瀬の本音も聞けた気がする。

「あーはね、僕にとって、妹だけど妹じゃないから、苦しかったよ。ずっと。我慢するの。」
「んー、前に頼之さんに言われとってんけどさ、彩瀬と私、血が繋がってないかもよ?まあ、私はどっちでもいいけど。法律も常識も関係ない。彩瀬、好き~~~。」

やっと伝えられることがうれしくて、私は何度も何度も好きと言い続けた。
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