塩対応


       「ゴッホ展…」


 私は美術館の前で思わず立ち止まった。


    「うん

      丁度今日までだったんだ」


       どうしてこの人

   いつも私の趣味をピンポイントで

      当ててくるんだろう。


     それに――

      「じゃ、行こっか。」


     「は、はい…。」


       私は一言も話さず

     作品に夢中になっていた。


      彼も「へえ〜。」や

      「ふぅ〜ん。」など

   簡単な単語をつぶやくだけだった。



 「今日はありがとうございました

   たのし…いえ、何でもありません。

            帰りましょう」


    「僕もありがとう

      今日はいい一日だったよ。


   来年の今日も再来年の今日も

      ずっとこうしてたいね」 


       「…そうですか」


     この人はこういうことを

      さらっと言うから嫌だ。


       私は下を向いた。


      赤い頬を隠すためだ。


       そうだ

     私はこの人を想っている。


       だが認めたくない。


       認めてしまったら

          きっと

        止まらなくなる。


      「happy birthday雪」


       そう言い微笑む彼は

        いつの間にか

    私の大好きなひまわりの花束を

        差し出していた。


     自分でも忘れていた誕生日。



     あ、好き――


        気づいた時には

       私の唇は彼の唇と


          重なっていた。

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