おいてけぼりティーンネイジャー
まあ、褒められたことじゃない。
デリカシーのない言動で、それだけ女の子を怒らせてきたのだろう。

「気が済んだ?あ、茂木に余計なこと言わなくていいから。じゃ。あいつをよろしく。」
俺はそう言って帰ろうとドアに手をかけた。

「行かないで。」
さとりちゃんが俺の背中にしがみついてきた。

「ダメだよ。茂木の気持ちを知ってしまったら、もう、さとりちゃんを抱けない。」
俺は振り向きもせずにそう言った。

小さな嗚咽が聞こえ、震えが伝わってきた。
「泣かれても、無理だから。」

重ねてそう言うと、さとりちゃんは俺の背中をドンと叩いた。
「私より、茂木さんのほうが大切なのね。」
当たり前だろ。
さすがにそう言ってしまうのは失礼かもしれない、と、俺は言葉を飲み込んだ。
「……茂木はかけがえのない、大切な仲間なんだ。」

そう言うにとどめたけど、やはりさとりちゃんは納得してくれなかった。
俺の右腕を引いて、ドアとの隙間に割り込んできて、滂沱する目で俺を見上げた。
「どうしても……ダメなの?」
……そのはずだったのだが……さとりちゃんの涙には勝てないんだよな。

俺は涙に濡れた瞳から目をそらせなくなり、まつ毛に唇を寄せた。
「俺がさとりちゃんにあげられるのは、一時的な快楽だけなんだ。『ピレボス』の最低ランクの、病的で激しい快楽だけ。もう、やめよう。茂木だけじゃなく、教授に対しても、申し訳ないよ。」

「そんなの知らない!私はプラトンなんか理解できない!」
……だからなんだけどね……体の関係から発展しなかったのは。

さとりちゃんは哲学も文学も、むしろ毛嫌いしてるような気がする。
別に小難しい討論をしたいわけじゃない。
ただ、気づいたこと、感動したことを伝えたいだけなんだけどな。

流されるまま性行為に及んでも、つまらない。
ただ、虚しかった。
俺を悦ばせようと躍起になっている目の前のさとりちゃんよりも、いくつになっても爽やかな茂木の笑顔がちらついて胸が痛かった。

最低のセックスの後、さとりちゃんはポタポタと涙をこぼした。
「ごめんなさい。もう二度とこんなこと、しません。」

俺はため息をついて、うなずいた。
「そうしてくれると、助かる。もう俺、さとりちゃんの泣き顔、見たくないよ。」
そう言ったのに、さとりちゃんはまた新たな涙を流して嗚咽した。

「……ねえ、知ってる?俺、ずっと、さとりちゃんの笑顔を見てないんだよ。俺といる時、さとりちゃんは、泣いてるか怒ってるか悲しい顔してるんだよ。そんな恋してちゃダメだよ。」
お前が言うか!って感じだけど、俺は心からそう言った。

本当は優しい子なのに……俺に対してはギスギスした嫉妬や恨み言ばかりだったよな。
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