おいてけぼりティーンネイジャー
Φαίδων-魂の不死についてside知織
「参ったな。すごくかわいいよ。……かわいすぎて、心配になってきた。」

高校の入学式の翌日の放課後、早速私は暎(はゆる)さんの部屋を訪ねた。
私にとって人生初の制服は、サイズは少し大きいものの窮屈に感じた。
でも確かにデザインも可愛くて、気に入った。

てか!クリームがかった白のブレザー&スカートって!
めっちゃ汚れるやろうに、すごいな。
さすが、お金持ちの子女の多い学校?

「多少は心配しはったほうがいいかも。京言葉、なんか、もてるみたいですよ?」
昨日から、少し話しただけで、男子からも女子からも羨望の目で見られる不思議。
面映ゆいけど、こっちの言葉に改めるつもりもないので、私はすまして言った。

「言葉だけじゃないと思うよ。こう、知織の周囲の空気がほんわかしてる気がする。癒し系?」
暎さんはそう言って、私の頭上で手をひらひらさせて、空気を自分のほうに扇ぎ寄せた。

「美しい勘違いですね。」
苦笑して、暎さんの肩に頭を預けた。

「……人間って勘違いで結婚も殺人もしちゃうからなあ。やっぱり心配だな。」
そう言いながら暎さんは、私の背中に手を回し、ふんわりと抱きしめた。

出会ってから1年と9ヶ月たつけれど、暎さんはまだ私を抱いていない。
頬や額に口づけてくれることはあっても、マウストゥーマウスのキスもまだだ。

「心配ならちゃんと自分のものにしちゃえばいいのに。」
ちょっと拗ねモードでそう言ってみたけど、暎さんは私の首筋に強めに口づけて小さな赤い痕をつけた。

「煽らないでくれる?俺、これでも我慢してるんだから。」
「我慢する必要ないやん。高校生になったら解禁かと思ってたけど。」

口をとがらせた私に暎さんが苦笑した。
「臆病なロマンティストなんだよ、今の俺は。知織をただの情事にしたくないの。」

太陽の出てる時間帯は嫌だ、恥ずかしいからしらふじゃ無理、ムードのある場所で大切に愛したい、って?

暎さんがイロイロこだわってはるのはわかるけど。
「横からかっさらわれるかもしれませんねえ。」
つい、そう嘯(うそぶ)いた。


「あ!そや!携帯電話、親が買ってくれました。せやし、暎さんが払ってくださってる電話、解約してもらおうと思って。ありがとうございました。」

そう言って、電話を渡そうとしたけれど、暎さんは悲しい顔になった。
「いいよ。そのまま持っててよ。」

「いや、2台は必要ないですから。もったいないし。」

重たいし。
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