Trick or Love?【短】
「私、恋愛感情なんてないわよ」


せめてこの男に従順にはなるまいと、原口くんをキッと睨んだ。


「ん。いいよ、別に」


だけど、彼はあっけらかんと言い放ち、相変わらず余裕そうな笑みは崩れていない。


「お試し期間なんて、無駄だと思うんだけど」


それにまた悔しさを感じて虚勢を張ったけど、原口くんの顔に浮かんだ笑みが消えることはなかった。


「無駄かどうかは、今はまだわからないだろ。一ヶ月経っても中内の気持ちが変わらなかったら、その時はお詫びに何でも言うこと聞くよ」

「その言葉、忘れないでよ?」

「俺の記憶力がいいのは知ってるだろ」


どこまでも自信に満ちた表情に、少しだけ不安が芽生える。それでも決して折れないことをわからせたくて、私も負けじとにっこりと笑った。


「わかった。後悔しても知らないからね」

「しないって。一ヶ月もあれば充分だし」


原口くんはふっと笑って、私の顎から手を離した。

力んでいた体が、静かに緩んでいく。
そして、ようやく安堵のため息を零そうかという時、私から体を離そうとした原口くんがふと何かを思い出したかのような顔をした。


「……まぁ、今はこっちで妥協しとくか」

「え?」


私の左頬で小さなリップ音が鳴ったのは、原口くんの表情が見えなくなった直後のことだった。


「なっ……!?約束が違うじゃない!」


慌てて頬を押さえた私の言葉に、原口くんがにっこりと笑った。


「なんで?付き合うって言わないならキスする、って言っただろ?」


それから、彼は悪びれもなくさらりと言い放った。


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