Trick or Love?【短】
カァッと、頬が熱くなる。
落ち着いたはずの体温がまた上昇して、慌てて原口くんから視線を逸らした。


「続きは、またいつか聞かせてやるよ」


わざとらしいほど低くなった声音に、つい余計な想像を掻き立てられてしまう。


『そういうのはベッドの中だけで充分だろ?』


そんなふざけたことを言い放った男の手中に堕ちかけている自分自身を、必死の思いで留めた。

社内恋愛がどうとか、もうどうでもいい。
今の私にとっては、原口圭人という男に堕ちてしまうことを避ける方が重要になっていたから。


そもそも、こんな狡猾な男を好きになるわけがない。間違っても、恋愛対象に入れたりなんかしない。

絶対に好きにならないことを宣言しようと決めた私は、一思いに口を開いた。


「原口くん」

「圭人でいいよ」

「……いきなり呼べないわよ」


再び振り返った原口くんの言葉に、つい言おうとしていた台詞とは違うものが出てしまった。慌てて気を取り直したものの、ふっと笑った彼に目を奪われて目的を忘れてしまう。


「俺は呼べるけど」

「え?」


原口くんは、目を見開いた私の腕を引っ張ると、真剣な表情になった。


「久美(くみ)」


愛おしげに呼ばれた、名前。
聞き慣れたはずなのに、まるで自分のものじゃないみたい。


「なぁ、久美」


まるで逃がさないと言わんばかりに、射るような瞳が私の心を真っ直ぐに突き刺す。


「早く堕ちろよ、俺に」


その瞳から視線を逸らせない私は、さっきまではただの同僚だったはずの男に堕とされる予感を抱き、同時に全てを奪われてしまうことを理解していた――。

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