Trick or Love?【短】
「中内(なかうち)には、これが冗談に見えるのか?」


落とされた静かな声音には、明らかに不機嫌な雰囲気が混じっていた。
察するに、状況を把握できない私がさっき何とか吐き出した言葉が、気に入らなかったらしい。


冗談?

そんな風には見えない。
むしろ、見えるわけがない。


だから、困ってるのよ……。

心の中で不満げに呟いた言葉は、私の表情にもしっかりと出ているだろう。目の前に立つ男にだってそれは伝わっているはずだけど、彼はまるで私の気持ちなんて関係がないとでも言わんばかりに眉間にシワを寄せている。


「黙ってないで答えろよ」


私の質問には答えてくれないくせに、自分の質問には早く答えろと言う。

原口圭人(はらぐちけいと)は、こんな理不尽な人間だっただろうか。
私の知る限り、彼は良くも悪くも特別目立つようなタイプではないけど、いつだって真面目で人当たりもそれなりに良い。
そんな、ごく普通の人間だった。


そう――。
少なくとも、同僚相手に突然壁ドンなんて、そんなベタな恋愛ドラマのようなことをする人ではなかったはずなのだ。


「冗談……には見えない」


焦れた表情を見せた原口くんに、ようやく答えを返すことができた。そして、すぐに口を開こうとした彼の言葉を止めるように、続けて唇を動かした。


「あなたがこういう冗談をする人じゃないことは、一応知ってるつもりよ。だから、この状況が全く理解できなくて困ってる」


緊張で震えそうになる声でひとつひとつ零していけば、原口くんの顔が更に険しくなった。

そんな顔をされても、困る。


だって――。

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