雨の中の喫茶店
雨はすっかり本降りになってしまって、表は人通りが少ない。
昼間の人通りがウソのようにガラっと変わる。
ましてや、雨が降っているから今日は余計にだ。
そんな静かな感じが好きで二人は仕事帰りに待ち合わせるときは夕方のこの喫茶店を使った。
二人で誕生日を祝ったあの日から。

なんと無しに静かな二人の食事の時間が過ぎていく・・・・。
そんな中、彼女は呟く。

“憶えている、初めて二人で過ごしたあなたの誕生日?”

“あぁ、確かここで過ごしたっけ。”

“それだけじゃないよ、あなたは同じ海鮮パスタを注文したの。”

あの時と彼は変わらない、自分で考えて自分で生きている。
彼女はふと、自分は・・・と考えてみる。

“初めて出会った時の事憶えてる?”

“最初はなんて際どいセンスの人だろうって思った。”

彼女に少し笑みが綻ぶけど少し儚げなのは仕方がない。
“悪かったな”と膨れてみせる彼は真っ直ぐ彼女の方に向いてない。

“でも、全然違って、絵も柔らかくって。”

“全然話しやすくって・・・。”

彼女の頭の中を次から次えと思い出がよぎる。
良い事、悪い事、楽しい事、辛い事いつも二人で感じていた事達。
彼と付き合い始めて彼女は変わった。
優しくなれたり、おおらかに許せたり、他の人を思いやれて・・・・。
自分がこんなに家庭的な人間になるなんて思いもしなかった。

“どうしても、別れなきゃダメなの?”

彼女にとって3年間は少し別れるのには思い出が多過ぎる。
少し躊躇ってからうなずく彼。
彼女は少しチクッときたけど、もう心が崩れたりはしなかった。
“何とかする”そう心に決めたから。

“なら、ちゃんと納得できるように説明して。”

“じゃないと納得できないから・・・。”

理由がわからないと返事のしようもない、と当然の主張をしてみせた。
彼はまた話し出そうとしたが彼女に止められた。

“けど、まずは食べてからね。”

彼女は制止して他愛もない話を続けだした。

ウェイトレスはお昼のタイムサービスの券を準備しながら二人の成り行きに耳を傾けていた。
そして、最近別れた相手の最後の言葉を思い出していた。

“別に俺じゃなくても良いわけだろ?”

そんなんじゃない、といいたかったけど、言えなかった。
まだ新しい、けど苦い記憶。

ウェイトレスには彼女が少しでも恋人でいる時間を続けたいように見えた。
それは、自分の事を重ねるようで少し切なくて。
自分と同じように失敗しないで欲しいと言うかすかな望みで。
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