貴公子?いいえ、俺様男です
7.

かくれんぼ

どんより曇ったパリの空。

里菜ちゃんの行方は、分からないままだ。

日本から離れて一年半。街はクリスマスの準備で華やかに彩られている。

一年前にオープンさせた店の名は、
"Ma cherie "(マ シェリ)
フランス語で"愛しい人" だ。

瑛二の店を真似たわけではないが、里菜ちゃんのことを想っていたら、これしか思い浮かばなかった。

少しずつ、俺のセンスはパリの人々に受け入れられ、固定客も付いた。
長年の夢が叶い、何もかもが満たされるはずだったのに、心は空虚だ。

どこにいても、無意識に長い黒髪の女の子を探した。

オフの日には、美術館に足を運んだ。

綺麗なもの、心が動かされたもの、美味しいもの、、、何かを発見するたびに、知らせたいと強く思うのは小野田 里菜ただ一人だ。

アパートで一人眠る。
熟睡できたことは一日もない。
夜中に目が覚め、もう一度眠ろうと瞼を閉じれば、腕の中で静かな寝息を立て眠る彼女の顔や体温が蘇った。


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