強引な次期社長に独り占めされてます!
今、このタイミング……って、まさかね?

そう思いながらも、こっそりドアスコープを覗くと、そこには間違いなく主任が立っていて、呆れたと言うか安心したと言うか……。

一番先に来たのは“困った”感情なわけで。

ドアチェーンをかけたまま、そうっとドアを開けると、少し寒そうにしている主任の笑顔が見えた。

「……こんばんは」

「今さら挨拶とか遅いだろ。とりあえず寒い」

「寒い場所に、私を連れ出そうとしていた人のセリフではありませんね」

「え……もしかして俺、ここで駄々こねればいい?」

何を突然言い出すの?

駄々をこねるって……駄々を……。

いや、困る。
こんなところでドアを挟んでそんな事されても、近所迷惑になるし、とても恥ずかしい。

仕方ないのかどうかは判断できないけど、無言でドアを閉めてから、チェーンを外して再度ドアを開けた。

「大事は避けたいですが、主任を部屋に上げるのもどうかと思っちゃうんですけど……」

「それも今さら。すでに金曜の夜に上がったし。お前をベットに寝かしつけて、鍵閉めて、鍵を玄関から投げ込んどいた」

何気なくサラサラと返事をくれながら、主任は玄関先に入ってきた。

あんぐりと口を開けて見上げてから、言っている言葉の意味に顔が赤くなる。

それから慌てて新聞受けを開けた。

そこには電気料金の測量紙と、何もついていない、特にこれといって特徴もないシルバーの部屋の鍵が……。
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