強引な次期社長に独り占めされてます!
頑張ったけど、モタモタしていたら今日は芳賀さんに紛れ込む事ができなかったから……。

「……お疲れさまです」

真後ろにいる主任に挨拶しないで帰ったら“何事か”と思われるだろうし、出来るだけ見ないようにして呟いてから、急いで退勤をスキャンする。

そのまま、慌てて事務所のドアを開けて飛び出した途端、何かにぶつかって反動で跳ね返った。

「きゃ……」

ぽてんと尻餅をついて、すかさず背後から抱えあげられる。

「ナイス。幸人」

耳元で聞こえたのは紛れもなく主任の声だ。

「社内で幸人は駄目だろう。松浦さん、すまない。怪我はなかったか?」

目の前には専務が立っていて、主任は私を後ろから抱えているという構図。

……いろんな意味で何かがおかしい。

「大丈夫だろ。ちゃんとケツからこけてたし」

ケツとか言わないで欲しいですー。

「でも、泣きそうな顔をしてる」

前髪カーテンなしに覗き込まれ、慌てて両手で顔を隠す。

「大丈夫だろ。逃げられなかったからショボくれてるだけだし」

主任が“正解”だけど、抱え直されたなーと思ったら、耳慣れた退勤スキャンの音が聞こえた。

「珍しい。定時上がりか?」

「まぁ。用事が出来たんで」

専務の声に答える主任の声。

え? 主任、定時上がり? それは本当に珍しい……。

けど、キョトンとして顔を上げるのと、片手で抱えられたまま事務所を出るのとは同時だった。

「どーすっかなー。とりあえず、飯食いに行くか」

ちょっと待って、何だかいつも通りの普通の会話みたくなってるけど、私抱えてそのセリフは間違っている。
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