ユーレイと祓い屋
ある詐欺師はこう言った。


『実は今、奥さまはあちらにいらっしゃいます』


違う。わたしはここにいる。家の中に入ってなんかいない。


ある詐欺師はこう言った。


『この家を出たほうがいいかもしれません、奥さまの怨念に当てられて悪いものが集まってしまっています。もしくはこちらの護符を……』


集まってないし。わたし頑張って倒してるし。

えいやっと力いっぱいぶん殴ると大抵帰ってくれるので、とにかく禍々しいものは暴力に訴えてお帰りいただいているのである。


ある詐欺師はこう言った。


『奥さまもおつらかったのでしょう、旦那さまをお恨みになって……』


違う。恨んでなんかいない。


わたしが蛍を恨むはずがないでしょう。

こんなに蛍が好きなのに。蛍はなんにも悪くないのに。


「喧嘩したからっ……お、れが、おれのために買い物に行かなかったら……!」


ふざけるなと叫びたかった。


わたしが視えてもいないくせに、わたしの気持ちを勝手に代弁して捏造して、お札やら何やらを超高額で押しつけて。


「……そんな、おれは、おれは……!」


蛍に、後悔ばかりさせている。


どうしたら、と呟く蛍を抱きしめたかった。いいんだよって言いたかった。


ねえ蛍、わたし、蛍を愛してる。


だけど、いいんだよ。


本当は忘れられたら悲しいけど、わたしとの思い出が、わたしの空白の名前が、蛍の重荷になるよりは。


蛍が悔やみ続けて、怯えて疲れて沈んでいくくらいなら、いっそ。


わたしを忘れてしまっても、いい。
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