砂糖菓子より甘い恋1

一の一 左大臣の願い

「よくいらしてくれた、龍星殿」

左大臣家についた龍星は手入れの行き届いた庭の見える客間へと通された。

都でも美形と称される龍星を一目見ようと、遠くから女房たちが窺ってくる視線を感じるが、龍星は気付かないふりでやり過ごしていた。

目の前のタヌキ、否、左大臣に視線を戻すと妖艶に微笑んだ。
先日、親友の雅之に頼まれ、渋々御所へ赴き、帝に適当なことを言って安心させた直後、この男にも捕まり、今、こうして強引に左大臣家に招かれているのだ。とても人前では言えぬ相談があるという。

先日娘を入内させたばかりというこの男。さらに何を望むというのか。


「相談というのは他でもない、娘のことなのだ」

言いづらそうな顔でタヌキが切り出した。

「先日入内された?」

「いや、千のことは良いのだ。一刻も早く皇子を産んでくれれば」

タヌキの下品な笑いに、龍星は内心うんざりするが、それをおくびにも出さず、優雅に微笑む。
覗き見ている女房たちがほう、とうっとりした吐息を漏らした。
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