冴えない彼は私の許婚

「葉瀬さん来春の新色の件なんですが?」

「うん」

葉瀬さんはパソコンから目を離す事なく相変わらずの受け答え。

「あの…」

「なに」

「いえ…宜しくお願いします」

「うん」

「………」
ハァー…私、この人とプレゼン乗りきれるのか自信ない。
まぁ自分の仕事をやるしかないんだけど…

私は隣の研究室に向かい試作品のパレットを冷蔵庫から1つ取り出し色の確認をし、自分の唇に塗る。
発色、触感、味覚、嗅覚を確認して自分の席に着く。

「先輩それ今度の試作品ですか?」

「そう」

「素敵な色ですねー」と玲美ちゃんはうっとりして見てくれる。

お昼休憩になり、私は玲美ちゃんと食堂に行くことにした。

「先輩何にします?」

「口紅が剥げやすいもの…
えーと…よし、うどんにする。
おばさんきつねうどん下さい」

テーブルに着くとまず、うどんのつゆを飲む。
丼には付いていない。
そしてうどんを啜って食べ、手鏡で唇を見る。

「よし!丼にも付いてないし、うどんを食べても剥げない」

私が確認していると玲美ちゃんが呆れたように首を振っている。
私達は食事を済ませて開発部まで戻ると玲美ちゃは真剣な顔をして話し出した。

「先輩、お昼休憩まで仕事だなんて真面目すぎますよ?」

いやこれも仕事だからね?

「だって色々試してみないとね?」

「じゃ次はキスですか?」と玲美ちゃんが微笑んで言う。

「キス?…」

「キスは試さないとダメじゃないですか?女にとって一番大事ですよ?」

そうだよね? …だけど誰とキスするの? 私…

「先輩、彼氏さんと濃厚なキスのデータ取れば良いじゃないですか? 今日は金曜日だし、しっかりデータ取れますよ?」

「うん…」

彼女は、何故か私に彼氏が居ると思ってる。
一度も居るなどと言っていないのにだ。

キスのデータね…?
確かに大事だと思うけど…
私だって彼氏がいたら困ってませんよ…
ハァーとまたしても溜息が出る。

データもそうだけど、明日はホテルで食事なんだよね…
もぅー どうしたらいいのよ… 




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