冴えない彼は私の許婚
情報屋にヤキモチ?
 来春の新作が決まると浮かれてる間もなく直ぐに新秋の商品開発に入らなくてはならない。
どの部署も情報収集やらでみんな忙しく動き回ることになる。
特に情報部には秋冬のトレンドファッションは何か?事細かく教えて貰わなくてはいけない。
が、しかし一般情報だけでは作品を作るのには不十分だ。
それでこの時、情報部で同期の佐久間輝一(さくまきいち)が役に立つ。
佐久間は、ファッション界にも何故か顔が聞く。
お昼休みになると私は5階にある情報部に顔を出す。
扉を開け「お疲れ様です」と挨拶をし佐久間の姿を探すと自分の席に座って電話をしていた。
佐久間の側まで行く間何人かの人に声を掛けられる。
『差咲良さんおめでとう』『いい物作ったね』と声を掛けて貰える。
今までここに来てもこんなに声を掛けられたことなど無かった。
佐久間の側でま行き電話が終わるのを待って声を掛ける。

「佐久間ランチ行かない?」

「おー差咲良そろそろ来ると思ってたよ!」

「いつものところで良い?」

「あぁ奢りな!?」

私達は社を出ると少し離れた路地の奥にある小さな食堂を目指す。
入り口の引き戸はガラスが割れていてガムテープで、応急処置してある。
と、いっても何年もこのままだが…
ここは店は古いが味はとても良く値段も安い。
それにうちの社員がまず来る事ないため他の人に聞かれたくない話も出来る。

「おばちゃんカツ丼の大盛り」と佐久間が注文する。

「私は鯖の味噌煮定食お願いしまーす」と注文してテーブル席に座る。

「おまえいつもそれだな?」

「だって美味しいだもん!」

ここの鯖の味噌煮は白ネギと生姜を多めに入れて白味噌で煮ている私好みの味なのだ。
味のしみた白ネギはなんとも言えない美味しさ。
私のねぎ好きを知ってるおばちゃんはいつもネギを多めに入れてくれる。

「差咲良おめでとう!」

「うん有難う。佐久間の情報のおかげだよ!」

「それとそれもおめでとう」と佐久間は私の左手を指差す。

「うん、有難う」

「おまえ今回のプレゼンで結構名前売れたからな?うちの部署にも差咲良を狙ってる奴居るけどその指輪見たらがっかりするだろうな?」

私は少し照れながらお茶を湯呑に注ぐ。

「何だあいつ?」と佐久間が言う。

佐久間の見てる方を振り返ってみると、そこには恭之助さんが入り口のガラス戸越しに睨んでいた。

「恭之助さん!?」

私は、椅子から立ち上がり入り口の引き戸を開ける。

「どうしたの?どうしてここに?」と驚いて聞く。

「碧海が男と社を出て行くのが見えたから…そいつ誰?」

恭之助さんは不愉快そうに聞く。
え?私を追いかけて来たの?
ひょっとして恭之助さんヤキモチ焼いてる?
ちょっと嬉しいかも…ウフフ

「恭之助さんご飯まだでしょ?ここ鯖の味噌煮美味しいの一緒に食べよ?」

恭之助さんを私の隣に座らせて鯖の味噌煮をもうひとつ追加する。

「改めて紹介するね?同期で情報部の佐久間輝一そして私の婚約者で葉瀬恭之助さんです」と二人を紹介する。

「あなたですか?葉瀬さんっていくつものヒット商品を生み出してるって言うのは?でも聞いていた感じと違うな…」と佐久間は首を傾げてる。

「あーそれはね?社にいる時は本当の自分を隠してるの、そのほうが仕事やりやすいからって?」

「へぇーそうなんだ?まぁイケメンだからうちの女性陣も放っとかないだろうしその方が差咲良も安心だろ?」と佐久間は笑う。

「うん、まぁーね!だから佐久間も内緒にしといてね?」

「あぁ分かったよ!」

恭之助さんは佐久間が同期と分かっても機嫌が悪いみたい…
まだ何かあるのかな?
そこに食事が運ばれて来た。
それからは三人共無言で食べる事に専念した。
佐久間は居心地が悪かったのかカツ丼を駈け込むように食べると、

「葉瀬さん、俺、差咲良には女として興味ないので心配しなくても良いですよ?」と笑って言う。

「私だってあんたの事男として見たこと無いし!」と口を尖らる。

「お前は、俺を情報屋としか思ってないもんな?」

佐久間は笑って席を立つ。
そして佐久間は手帳から一枚紙を破って半分に折りテーブルの上に置く。

「これは俺が集めた情報、あくまで同期の差咲良だから渡すけど、これを葉瀬さんが見ようと見まいと俺はどっちでも良いですよ!じゃ差咲良ゴチな!」と佐久間は店を出て行った。

「碧海、いい同期(やつ)だな?大事にしろよ情報屋」と笑う。

さっきまでの不機嫌な恭之助さんはもう居ない。
ここに居るのは私の大好きな優しい恭之助さん。

「うん」

2人で食事を済ませて社の近くまで来ると

「恭之助さん、メガネ、メガネ!」と言って恭之助さんにメガネを掛けてもらう。

あの時恭之助さんは『これは碧海が貰った情報だ、俺は俺で情報を手に入れる。いくら婚約者でも開発部ではお互いライバルだからな』と言って佐久間から貰った情報を恭之助さんが見ることは無かった。

今日は恭之助さんの部屋で塩麹焼きそばを作ってふたりで食べた。

「塩麹焼きそば、なかなか良いな?ビールにも合うし旨いよ」

「良かった、これから色々レパートリー増やすからね?」

「あぁでも無理しなくていいから、こうして碧海をたべれるしな…」

恭之助さんの唇が私の唇を塞ぐ。

「ん……きょうの…すけ…さん」

「碧海、恭之助でいいよ?恭之助って呼べよ!」と言って唇が首筋を這う。

「ぁ…どうしたの?…急に……」

「情報屋は呼び捨てしてるのに俺の事はさん付けだろ…」

「あぁ……ん…恭之助…」

「碧海……」

恭之助さんはやっぱりヤキモチ焼いていたんだね?!
私はこんなにあなたの事が好きなんだから心配しなくても良いのに…
ベットで横になっていると恭之助さんが前髪をかき上げ話す。

「もうメガネやめようかな?」と恭之助さんは面倒くさそうな顔をして言う。

「えーメガネやめるの?」驚いて顔を上げ聞く。

「なに?碧海は冴えない俺は嫌いじゃなかったの?」

「んー好きとか嫌いとかじゃなくて…恭之助さんがメガネやめると私困る。ずっと心配してなきゃいけないでしょ?仕事にならないかも…」

恭之助さんがメガネを掛けずにロビーを通っただけでどれだけの人が恭之助に釘付けになった事か…

「碧海、また恭之助さんって言ったぞ?」と苦笑する。

「急には難しいよ…」

「まぁ良いか碧海もヤキモチ焼いてくれるって分かったからな?メガネは碧海の為に掛けとくよ!」と微笑んでくれる。

「ねぇ展覧会の準備進んでる?」

「あぁ構想はだいたい出来上がってる、碧海の為に生けるから楽しみにしていろよ」

「うん、楽しみにしてる」

来週末には生け花展がある。
恭之助さんは仕事が終わった後も生け花展の準備で忙しくなる。
だからこの一週間は仕事以外で会うことは出来ないだろうな…
ちょっと寂しいけど我慢我慢!




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