『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。

間違えたっ！

久城さんを迎えに出た玄関先で、にっこりと笑って佇む女性を前に戸惑った。
空港から付いてきた…という彼女を、彼は自分の顧客だと言って紹介した。


「三条紗奈（さんじょう　さな）さん。今回の出張元になったお客さんだよ」


呆れるを通り越して、諦め感が強く出てる。
あたしはあんぐりと口を開け、彼女の顔を見つめた。



「初めまして、奥様」


紹介された女性は、可愛らしい声で囁いた。
一瞬、誰のことだろう…？と思い、周囲に目を配ってしまった。

はた…と彼と目が合い、自分のことだと気がついた。
急に焦りが出てきて、おろおろしながら挨拶を返した。


「ど、どうも初めまして……こ、いえ、あの、愛理と言います…。どうぞ、よろしくお願いします」


顔を引きつらせながら頭を下げた。
お客様は軽く会釈をして、許しもしないうちから靴を脱いで上がり始めた。


「えっ⁉︎ …あの、紗奈さん…！」


呼び止める彼の言葉を無視して上がり込む。
口ごもる彼を軽く睨んで、あたしは彼女の行動を確かめた。


「ふぅん…結婚したのに変わってないのねー」


部屋の様子を知ってるらしく、手前のドアから開けていく。
寝室の向かい側にある襖に手をかけ始めたのに気がついて、慌てて近づいていった。


「すみません…こちらは今、お客様が寝てらしてて…」


先程休まれたばかりなんです…と必死で言い訳した。
昨日からずっと寝てくれなかったおばあちゃんの睡眠を邪魔されたくなかった。