『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
疑わしそうな表情を浮かべても、久城さんはそれ以上何も聞かなかった。
「時間がないから…」と話し始め、あたしが言った言葉を彼に伝えた。


「祖母が認知症かどうかを検査して頂きたいんです。彼女が…僕の妻がそうだろうと言うものですから…」

投じられた矢のような言葉に振り向いた。
久城さんはあたしをちらりと見て、「ねっ」と声をかけた。


「は、はい…」


ドキドキしながら彼を見つめてしまった。

婚姻届を提出していない今、あたしはまだ彼の正式な妻じゃない。
フルネームを書けと言われたら『甲本愛理』と書く筈だ。

でも、敢えて彼はあたしをそう紹介した。
そこにどんな意図があるのか、あたしには考えも及ばなかった。



武内はあたし達の顔をまじまじと見つめ、「ふぅーん…」と唸った。
何かを考えるように間を空けて、「そうですか…」と呟いた。


「甲本さんが…失礼、奥様がそう言われるのでしたら間違いはないのかもしれないですね。分かりました。ちょっと検査してみましょう」


武内は看護師を呼び、認知症判定に必要なテスト用紙を持ってこさせた。
様々な物品を準備する間、簡単な記憶力を確かめられる。

氏名、年齢、住所、電話番号や生年月日…いろいろな質問をされながら、本人がどの程度自分のことを理解しているかを調べる。
徐々に質問は複雑になる。「誰と此処へ来ましたか?」という質問に、おばあちゃんは「孫達」と答えた。

< 89 / 249 >

この作品をシェア

pagetop