『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
「もう少し早くこちらに来られれば、記憶の崩壊もここまで進まずに済んだかもしれませんけど、それでも今の状態ならまだ手遅れではありません。
今は進行を遅らせる薬も多く開発されています。どれが久城さんに一番合うか試すこともまだ可能です。良かったですね。奥様がその道のプロで」



武内の言葉に慌てた。
あたしは職歴を何一つ久城さんに知らせていない。
当然彼は驚き、「えっ…?」と声を発した。


「あれ?もしかしてこ存じないんですか?彼女はね……」


「あっ、あの、先生!その話は、患者さんとは無関係だと思いますけど…?」





毅然とした態度で彼女が言葉をかけた。
チャラそうな医師は彼女のことを一瞥して、「まっ、確かにそうだね…」と、少し砕けた物言いをした。


「…とにかく今日のところは一般的な内服薬を処方しておきます。シールタイプやゼリー状のものもありますから、合わなければそちらを試していきましょう」


「…よろしくお願いします……」


俺はぶすっとしたまま武内という医師に頭を下げた。
彼のことを見ようともしない彼女の態度を変に思いながら、診察室を出ようとした時……


「あっ…久城さん、ちょっと伺いますが、主にお祖母様のお世話をされる方はどなたですか?今後の日常生活での注意点などを説明しておきたいんですが……」



ちらりと視線を彼女に向けたのを確認した。
知り合いだと言っていたから、何か話がしたいのだな…というのはすぐに分かった。
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