『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
ケアマネージャーの資格を取って、雪崩式に増えた仕事に振り回されてた20代前半の頃。
毎晩のように遅くなるあたしを気にかけてくれたのは、施設の嘱託医をしてた武内だった。



「毎日遅くまで頑張るね」


医務室から顔を覗かせ、あたしのいる介護休憩室へとやって来る。

大学のインターンを経て施設に就職した彼は、まだ新米の医師だった。


「お疲れ様です。武内先生も遅くまでお仕事だったんですか?」


女遊びが酷い人だというのを知らなかった。
この時も新人の女の子に手を出しかけて、あっさりフラれた後だったのだ。


「うん……ちょっと利用者の持病について調べててね。君は?また介護計画練ってるの?」


パソコンの前に座ってるあたしの横に来て、一緒に画面を眺める。
病気についてはプロだから、あたしは前から彼にいろんな相談事をしていた。


「ちょっと心疾患のある方なので、離床時間を増やしたくても心配で…。何か良いアイデアありませんか?注意事項でもいいからヒント頂けると助かります…」


いつものようにお願いモードで隣を向いた。
その彼にいきなりキスをされ、驚きと戸惑いであたしは大きく体を仰け反らした。


「な、何するんですか!」


ゴシッと唇を拭いた。
武内はニヤッと笑って、あたしのことを引き寄せた。


「何って、キスだよ。まさか初めてじゃないだろう?」


近寄ってくる唇を避けなかったのにはワケがある。


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