『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
ヘタをすると体を傷つけられるかもしれない…という恐怖があたしにはあった。
一回だけ寝るくらいなら怖くない。
彼と繋がってる間、何も考えずにさえいたらいいんだ…。



「……分かった。その代わり一筆書いてからにして」



ケアマネという仕事をしてて良かった…と、この時はしみじみ思った。
口約束ほど無効なものはない。
後腐れなく別れるには、文書を残しておくのが一番だ。


武内はブツブツ言いながらも念書を書き、それに日付と署名、捺印を押した。


「これでいいか?」


手渡された物を受け取り、確認する。


嘔気がつきそうになるのを我慢して、「いいよ」と呟いた。



武内はニヤリと笑い、「契約成立だな」と言った。

それから、あたしを一晩中抱いて、翌日からは別の職員と付き合い始めた。



まるで陵辱された様な気がして、暫く食事も取れなくなった。
落ち込みの酷いあたしに、利用者は待ってくれない。

毎日の業務に押されていく一方で、イライラが募り言葉はどんどん荒れていく。

拘束まがいの言葉を使うことが増えた。命令や指示語なんて、日常茶飯事だった。


優しくしたくても長続きしない。

そのうちあたしは、自分の態度に対する罪悪感すら失ってしまったーーー。




今日の武内の注意事項は、その頃のあたしを象徴した言葉だった。


「言葉で脅したり、怖がらせたりしない。優しく、受容する態度で接する…」


分かってても出来なかった。
重い荷物を背負い過ぎて、馬鹿な自分にも縛り付けられて。

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