恋する左耳は、嘘がつけない
日向くんと初めて会ったのは、高校一年生のとき。


たまたま同じクラス、同じ班になって自己紹介したとき、わたしは今まで、こんなに向日葵を背負ってる男子を見たことがない、と思った。

明るくて、太陽みたいで、よく晴れたお日さまみたいな笑顔がまぶしい人。


「えっと、ひなたひなた、くん?」


名簿を確認して声を掛けると、くしゃっと笑った。


「ごめん分かりにくいよね! 日向(ひゅうが)ひなたです。よろしくね」

左京(さきょう)(なぎさ)です。よろしくね! そうだよね、一声呼びじゃないんだから、そんな二回繰り返すことないよね」


緊張のあまり馬鹿なことを口走ると、丸い目が瞬く。


「一声呼びって、もし、って一回だけ言われたら返事しちゃだめで、もしもしだったら大丈夫なやつ? そんなこと初めて言われた」


当たり前である。人さまのお名前を怪異に例えるお馬鹿をやらかすのは、わたしくらいに決まっている。


「ごめん……」

「いやいや。おっけ、左京さんを呼ぶときは、ちゃんと俺が怪異じゃないって分かるように二回呼ぶようにするわ」

「えっ?」


戸惑っているうちにそう決まっていて、あの日から日向くんは律儀に「左京さん左京さん」と呼ぶ。


左京さん左京さん、と二回繰り返してわたしを呼ぶのは日向くんだけで、それだけで、わたしは心が浮く。左耳が、熱くなる。


二回呼ばれるだけで恋をしたなんて、わたしの方こそ怪異めいている。でも、恋をしてしまったのだから仕方がない。


なんの奇縁か、わたしたちは三年間同じクラスだった。


わたしは日向くんを大抵は後ろから、ときどき近くになったりならなかったりしながら、恋心がばれないように髪をおろして眺めてきた。

日向くんの周りはいつも、太陽みたいにからっとしている。
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