嘘つきスノウ 〜上司は初恋の人でした〜
その胸に、縋りついてもいいですか?


困り果てるという言葉の意味を、今噛み締めている。

「成海さん、ダメですか?」

上目遣いで請われても、返事を躊躇ってしまう。

周りでは電話が鳴り、バタバタと忙しく立ち働く人たちの中でわたしと目の前の神林くんだけが時間から取り残されていた。

「新社屋にウチの製品入れてもらえるかどうかの大事なときなんです」

「それはわかるんやけど・・・・・。だからってなんでわたしなんやろか?」

「成海さん、向こうの部長のお気に入りなんですよー。『あの鈴を鳴らすような声の成海さん』ってえらくご執心でぇ」

神林くんが拝むように手を合わせた。

取引先の部長がわたしをお気に入りなのは分かった。
会ったこともないのに不思議だけれど。

だからって接待の席に出されるのはどうなんだろう?

「課長はなんて?」

「まだ聞いてないです。まず成海さんの承諾貰ってからと思って」

いや、それ逆だから。
心の中で突っ込んでおく。

取引先の接待に事務のわたしが出るのはどうにもしっくりこない気がする。
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