わたしは年下の幼馴染に振り回されています
「何かあった?」

 彼女は一瞬、体を震わせる。だが、口元をゆがめると、わたしの足を踏んできた。

 彼女はわたしを睨みそのまま走り去っていった。

 わたしは動くこともできず小さくなっていく彼女を目で追った。

「美月」

 名前を呼ばれて我に返ると、拓馬の姿があった。

「千江美ちゃんなら向こうに行ったよ」

 彼女の去っていった方向を指さした。だが、もう彼女の姿はどこにもない。

「勉強教えてほしいって言ってきてすぐに終わったから戻っていったんだ。いないから教室に戻ろうとしたら会えてよかったよ」

 彼女がこんなところにいた理由と、悪意に満ちた言葉の意味に気づく。

「そっか。ごはんは食べ終わったんだ。今から教室に戻るところ」

「今日は悪いな」

 わたしは曖昧に笑っていた。

 彼女のことを拓馬に教えるべきなのか、黙っておくべきなのか迷っていた。

 迷った挙句、他人という立場を弁え、彼には何も言わないことに決めた。
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