⁂初恋プリズナー⁂
scar

今朝はきちんとフルメイクして、前髪をアップにした。

鏡に映る私には、りこではな黒川梨々子だという事に、まだ慣れない。

この顔も、妊娠も、颯ちゃんとの結婚も……。

幸せすぎて、なんだかすべてが夢のよう。


颯ちゃんがマンションから車で迎えにきてくれて。

私を見るなり、眩しそうに微笑んだ。

車の中では、いつものように手を繋いで。

会社に到着すると、しゅんとした犬のように寂しそうな瞳をする。

名残惜しそうに、なかなか離してくれない。

颯ちゃんに愛されてるのが嬉しくて、私も離れがたくなる。

週末に、私は実家を出て、颯ちゃんのマンションへ引っ越す予定になっている。

後3日我慢すれば、一緒に暮らせるのに、その3日がとても長く感じられる。

来月からお父さんが此方に戻って来る事になって、それまでお母さんを1人にするのは心配で、お父さんが帰って来るまで実家住まいをしようと思ったけど、お母さんが夜勤もあるから颯ちゃん一緒の方が安心だと、背中を押してくれた。

後3日……。

心で繰り返し、車を降りた。

颯ちゃんは私の姿が見えなくなるまで、車から見守ってくれていた。

颯ちゃんの溺愛具合に、拍車がかかった気がするのは……気の所為かな?

でも、幸せ。



「おはよう……ござい、ます」


所属する経理課に入室すると、多く双眸が私に向けられた。

しん……と静まり返る室内に、ごくり、と喉が鳴った。

心臓が喉から飛び出してきそうな程の緊張が、身体中を駆け巡る。

久しぶりのメイクだったけど、ブランクなく、ちゃんと出来たと思う。

髪も、前髪をアップにしておろしてるだけだけど、顔全体が露出して、恥ずかしい。

やっぱり前髪を切って、顔の露出面積を少なくした方が良かったかな。

前髪をつくらないのは、保険だった。

もし何かあったら、すぐおろして現実逃避する用に……。

もう既にバレッタを外して前髪を掻き戻したい衝動に駆られるけど、負けない。

心の中で、颯ちゃんにアドバイスされたことを反芻する。

下は向かない。

視線を下げない。

颯ちゃんが愛してくれた自分を卑下しない。

だから、胸を張ろう。
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