冷たい舌
 ふてくされたように、氏子さんたちの居並ぶ林の方を見ると、見知った影が混ざっていた。

 まだ始まりそうにないのを見て、そちらに向かうと、春日は少し頭を下げた。

「いらしてたんですね」

「ええ。ちょっと用事があったので、神事だけでも隅から拝見しようかと思いまして」

 照れ笑いをしながら春日は言った。

 それが言い訳であること、透子は気づかない。

 春日の会社のあるY市から、車で二時間かかるこの田舎に、ちょっと用などあるわけもないのだが。

「春日さん、お祭りよりも神事の方に興味がおありですもんね」

 微笑んでそう言いかけた透子は言葉を止めた。

「透子さん?」

 春日が、固まった透子の視線を追うように振り返り、息を呑んだ。

 林の奥から和尚が来た。

 透子の前で一瞬、足を止めかけたが、ちらと顔を見ただけで行ってしまう。

「……透子さん」

 自分を呼ぶ春日の声が遠くで聞こえた。
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