冷たい舌
 和尚は下を向いて熊手で丁寧に玉砂利の間のゴミを掻き出しながら言った。

「忠尚。
 そういう細かいことを言うな。

 ─だが、小学校の頃、いつも遅刻してたのは、透子の支度が遅かったからだがな」

 あんたの方が細かいんじゃないの。

 透子はさり気なくトドメを刺す和尚を睨む。

 忠尚が思い出したように笑った。

「そうそう。

 こいつ、人が迎えに来ても、まだ飯食っててさ。

 とろくさい癖に、一膳食い終わらなきゃ茶碗、離さないんだよな。

 茶碗と箸持ってるこいつの後ろで、潤子さんが一生懸命、髪結(ゆ)ってんの」

 透子の母を二人が潤子さんと呼ぶのは、子供の頃からの刷り込みの成果だ。

 気の若い潤子は『おばさん』と呼ばれるのを嫌がり、半ば脅迫に近い形で教え込んだのだ。

「高校入ってもそうだったよな。

 って、おい。

 お前、まさか今でも潤子さんにやってもらってんじゃねえだろうな」

「今は髪、結ってないもん」

 言い返した透子に、そういうことを言ってるんじゃないんだ、と男二人は項垂れる。

「よっ」

 ふいにした声に振り向くと、この場に不似合いな垢抜けた男が立っていた。
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