誘惑【短編】
微熱色



私は知らないふりをする。

たとえば、朝の挨拶のときであるとか、話しかけられたときとか。

彼の目は毒だ、猛毒だ。抱きしめられたときに直接感じる肌の温度より、別れ際の、尾をひくような手の振り方で私を見る熱が、とても。


だから私はするり、とその熱を通り過ぎて邪気なく笑顔で同じように手を振ると、その目は燻って鎮火しようと試みるからとてつもない罪悪感を感じてしまう。




だからこそ、彼は危険な香りがする。


私の理性を簡単に揺らしてくるから。




「あさか、お待たせしちゃった?」

「待ってないよ」

「……あれ、顔赤くない?体調大丈夫?」

「ううん、寒かったから」


言い訳はひどく陳腐だ。彼氏のいずみはごめんね、と謝った。そして手を握ってデートにいく。

握られたとき、私は違うと思ってしまった。重なった手の大きさであるとか、温度であるとか。もう恋しい。


罪悪感とかそんなもの抜きにして、このデートは熱に浮かされたように、先ほどまで会っていた彼のことしか考えられなくなるのだろう。確信だった。だろうじゃない、なる、のだ。

「今日はプラネタリウムだったっけ。最近忙しいからゆっくりできて嬉しいよ」

頷いたのか、どうか。
ぐらぐら揺れている。

思い出すのは、抱き合った熱。
別れ際の余韻の温度。


初めはただの風邪だった。毒のせいで熱が身体を蝕む。それが常時と勘違いさせられて、私は、私は--。



Fin
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