フキゲン課長の溺愛事情
 襲い来る睡魔にあっさり白旗を揚げ、再び眠りに落ちかけた。けれど、今度はドアがノックされる大きな音が聞こえてくる。

「水上? 水上!」

 それとともにくぐもった声で呼ばれた。璃子は床の上で体を丸めながら、ぼんやりとつぶやく。

「名字じゃなくて名前で呼んでよぅ……。いつもみたいに『璃子』って呼んでやさしくキスして起こして……」

『璃子はしっかり者なのに、朝だけはホント、弱いんだなぁ』

 啓一の呆れたような、でもやさしい笑い声が聞こえてきそうだ。同棲してからずっと、彼は朝、璃子の名前を呼んでキスして起こしてくれていた。

 付き合って二年経って始めた同棲は、ふたりに新鮮な喜びを与えてくれた。啓一のそばにいて、彼のためにご飯を作って、彼のために洗濯と掃除をして……一緒にいるのが楽しくて幸せだった。

「キスして起こしてくれたら、いつもみたいに朝ご飯を作ってあげる……」

 寝ぼけた甘え声でつぶやいたとき、耳もとで低い声がした。

「璃子、起きろ」

 吐息に耳をくすぐられて、首筋がぞぞっとする。

「うわぁぁぁっ」
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