ひぐらしの唄
一章
何回目の夏が来たのだろう……
あの時も暑く、ひぐらしが鳴いていた。
あれは俺が17の夏の時だったー
「母さん、行ってきます」
優しく微笑む母の写真。
優しい母は俺が10の時に亡くなった。
母は幼少時代から身体が弱く、長くは生きられないと言われていた。
大嫌いだった外見を好きだと言ってくれた。
あなたの瞳は澄みきった青空のようだとー
母はフランス人、父は日本人、俺はいわばハーフだ。母方の血が濃いから瞳は母と同じ青色だ。
「さ、親父に弁当届けないとな」
外は猛烈な暑さ、蝉もうるさい。
いつも歩き馴れた道、昔よく母さんと歩いたっけ……
着いた先は病院。俺の父親は医者、ここで働いている。
相変わらず、大きい病院だな……さ、親父探して弁当渡さないと……な。
ん?庭から声が……
「お姉ちゃん、風船取って」
小さい子どもともう1人の声……
「待ってて、今取ってあげるね?」
見て見ると女の子が木に絡まった風船を取ろうとしていた。
髪がオレンジ色……?
その時踏み外した瞬間ー
「きゃ……」
「危ない……!」
倒れる寸前で彼女を受け止めた。
羽のように軽い……?
彼女をよく見て見ると蒼白く、まるで死人みたいな……
髪も絹糸見たいに、少しでも触れると切れそうな髪ー
「おい、大丈夫ー」
冷たい手が俺に触れたー
そして……か細い、きれいな声で
「なんてきれいな青空……大好きな色だ……」
その言葉を残して気を失った。
「お……おい、あんた、しっかりしろ!」
「兄ちゃん、早く新垣先生所に行ってあげて、多分熱中症だと思うから」
心配そうに小さな患者が言ってくれた
「分かった、とりあえず、親父んとこに連れていくから安心しな」
彼女を抱き抱え親父のいる診察室に行った。
「父さん?いる?」
診察室には誰もいない。
とりあえず、彼女をベッドに寝かせた。
軽い身体、オレンジ色の髪、少し赤みがかかった頬。
ーなんてきれいな青空ー
あの言葉が頭から離れなれない……
ガタッ
「蒼、若菜ちゃんは大丈夫か?」
親父が駆けつけてきた。
「若菜……ちゃん?」
「ああ、この娘は澤村若菜、お前より1つ下だ。身体が弱くずっと入院している」
ずっとー病院に……
「あ、そうだ、父さん、この娘が……」
「ああ、分かっている、多分発作だろう、見せてみろ」
手際よく彼女を診ている。
身体の所々に手術した傷が……どれだけの手術を受けているんだー
「父さん、この娘って……」
「あ、ああ、外国人でもお前みたいにハーフでもないよ、生粋の日本人だよ、薬の影響で髪がオレンジ色なんだ、かわいそうに、まだ16なのに強いよな、お前と違って心が強い」
父さんははっきり言うー母さんが死んでから医者である父親に男手1つで俺をここまで……
「父さん、これ……」
「ああ、ありがとう、いつも悪いな」
「ん……ここは……」
「若菜ちゃん、大丈夫かい?倒れた君を蒼が運んでくれたんだよ?」
「あ……お……?」
「そ、新垣蒼、俺の息子、よろしくね」
「先生の息子さんなんですね、ありがとうございました……」
優しい笑顔ー
ードキンー
「あ……いや……その……」
「そうだ、蒼、しばらく彼女を診てやってくれないか?彼女の母親は忙しく、なかなか来れないから」
「でも……俺は……」
「彼女といると何かが分かるかもしれないし、第一、お前のメンテにもなるしな」
メンテって何だよ……
「この夏までだからな?」
このたった一夏が俺を変えてくれたー
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