SEXY-POLICE79
「泣いても、いいですよ。草間さん」

はっと気がつくと、空き室の病室のドアが開いていてそこには千秋がいた。

「…千……秋」

ぽろりと草間の頬に涙がつたう。千秋はそれを手で拭い両頬を優しく手で包み込む。 草間は驚きのあまり煙草を口から落とす。温かい彼の手。

「泣きたいときは泣いて笑いたい時に笑う。それが人というものです、草間さん」

――次はありません。これであなたとはお別れです。

切り放された細い糸。もう、戻れないのか。

「―――。なあ、千秋は記憶がなくて不安に思ったことないのか」

草間は千秋に問う。
千秋は手を放して病室の窓に視線をむけた。その瞳の奥はどこか遠くを見ているように思えた。千秋は窓から視線を戻して草間を真っ直ぐに見つめ、にこっと笑って言う。

「不安ですよ。でも記憶がないならまたつくればいいんです。埋めて埋めて、埋めつくして今度こそその大切な思い出を忘れないように。たくさん、作っていけばいいんです」

もう二度と忘れることのないように、大切なものを失ないように、あなたのその心の中に自分を置いてください。

「……つくる、か。あいつとの仲もそうやって取り戻すことができるのかな」

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