あの頃の私は知らない。





――カラン、カラン。

店のドアに付いているベルが鳴る。



「ありがとうござ……」


さっきのサラリーマンが出ていった音だろうかと思って顔を上げると、背の高い男の人が入ってきた。


「いらっしゃいませ」


慌ててそう言い直し、背筋を伸ばす。こんな閉店間際に珍しいなと思いながらも、メニュー表を差し出した。


「ご注文お決まりでしたら、お伺いいたします」

「えっと、抹茶ラテの……」


エスプレッソとか飲みそうな感じの人だけど、抹茶ラテなんだ、意外だな。そう思いつつ、言葉の続きを促すように視線はレジのまま問いかける。


「こちらホットでよろしかったでしょうか」


抹茶ラテホットと書かれたボタンの上に人差し指を乗せながら返事を待つ。



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