あの頃の私は知らない。






“順調で平穏な人生だった”。




そう思っていた。実際そうだった。


ただ唯一、あの夏を除いては。






「園田くん……」



口に出した瞬間、懐かしさと切なさと息苦しさでいっぱいになった。


ミンミンと騒がしい蝉の声と、さんさんと降り注ぐ太陽。

早朝の音楽室、交わした指切り、伝えられなかった言葉。


私の知っている彼よりもずっと背が伸びた目の前の彼は、久しぶり、と呟いた。






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