僕が嫌いな君が好き

ミュージカル

日曜日…

望と例のミュージカルを観に劇場へ来た。

思っていたよりも大きい所でちょっとわくわくしてきた。

どうやら望のお父さんがこの劇場の関係者らしく、チケットが貰えたらしい。


「そろそろ入るか?」


「あ、飲み物だけ買ってくるわ」


「あ、俺も」


劇場内のお茶は嫌とかなんとか…

我が儘言い出して、外のコンビニ行くとかいう望に、仕方ないから俺もついていく。

すると、劇場の外に…


「あ、森さん…」


偶然にも、君を見かけた。

これ、あれちゃう?

運命とかなんか、そういうやつ!

望も彼女に気付いた。


「あれ!?先輩ちゃうん!?」


その声の大きさに、先輩がこちらを振り向いた。


「あっ…」


すごく泣きそうな顔をしていて、なんだか俺も不安になる。


「誰?」


「1年の子です…」


「こんにちは。先輩方も観に行くんですか?」


そう聞くと、森さんは余計に辛そうな顔をした。


「…いや、俺らは…」


「…すみません、濱田さん…。私がチケットなくしちゃったの」


庇われると余計に辛くなるのか、男の人の言葉を遮ってそう言った。

一緒に行く予定やったんか…。

正直悔しい。

俺やって森さんのこと好きやし、デートだってしたいけど…

でも。

今はそんなこと、言うてる時じゃない。


「望…」


名前だけ呼んで、望の方に手を差し出した。


「え?あー、もう!わかったよ…」


全てを察して、自分のチケットを俺に渡してくれた。

自分のものと重ねて二枚、先輩に手渡した。


「二人で観てきて下さい!」


「…え!?でも…!」


「先輩のそんな顔見といて、俺だけ観に行くとかできませんよ」


先輩の手を取り、チケットを握らせた。


「楽しんで来て下さい!」


「藤崎くん…」


「あ!でも、俺は持ってるし…」


「席離れちゃうやないですか。二人一緒に行ってください」


半ば強引に二枚手渡して、その場から立ち去った。


「ほんま、勝手なやつ」


「悪いな。飯おごるわ」


「なら、オムライス」


「分かったよ、笑」
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