僕が嫌いな君が好き

先輩?

後ろから急に手首を掴まれた。

この状況でそんなことするのは、


「…森さん?」


先輩だけだ。


「藤崎くんとさよならしても、幸せにはなれへんよ…?」


え…何やそれ…。

先輩は俺の事嫌いなんちゃうの?


「それ…どういう事ですか?」


「分からんけど…。さよならとか、言わんとってよ…」


また泣きそうになる彼女を、さっきよりも強く抱き寄せた。


「期待しても、いいってことですか?」


「そこまでは誰も言うてない」


いつもの口調で、きっぱり言った後、


「だけど…嫌いやない、から…」


恥ずかしそうに、もごもごと呟いた。


"嫌いやない"


それだけでも嬉しかった。

俺にとっては大きな一歩だった。

体を離せば、少しだけ赤くなった顔が、また俺を喜ばせる。

やっぱり、森さんやないとあかんわ。


「俺、諦めるんやめます!やっぱりどうしても先輩のこと好きみたいです」


「…本気?」


「もちろん!」


「…あっそ」


聞いといて冷たいなぁ…

でもきっと、照れ隠し。

そう思うとそんな姿さえ可愛く思えた。


「宣戦布告です」


もう、先輩のこと絶対誰にも譲らん。


「絶対惚れさせます!」


「…勝手に言ってれば?」


追いかけてきたくせに、急にムキになって黙って駅へと走って行った。

もう無理だと思った。

君には近付けないと悟った。

だけど、こんな展開もあんねんな…

今日は、いい1日だ。
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