ぼくらのストロベリーフィールズ

5-1








「あ、お母さん? うん……元気だよ」



1人でご飯を作って、テレビをつける。


しばらく一吾くんの家で過ごしていたからか、

久々に過ごす1人の家――家族がいない家はひんやりしていた。



誰かに使われることによって家やモノにも血が通っていくのかもしれない。



「お父さんは出張中。うん、1人でも大丈夫だよ。そっちは?」



スマホ越しの母は、一緒に暮らしていた時よりもおだやかな声で、

ゆっくりと言葉を発した。



「うっそ、お母さんが農業ー? 似合わなーい、って怒らないでよー。

あ、おばーちゃんの家、畑と田んぼ広いしね」



この調子だとおそらく浮気相手とはもう会っていないだろう。


母の実家は、新幹線で1時間くらいの距離だし。



スマホを手にしたまま、もう片方の手でテレビの音量を小さくすると、急に母が黙り込んだ。


何か言いたげな様子で。



「……お母さん?」



呼びかけると、かすれた声で母はこう言った。


お父さんに仕事、無理しないでって伝えておいてね、と。



「うん。わかった。うん。お母さんも元気でね」



目に涙がたまりそうになる。


無意識のうちに、家を出ていったときにかけられなかった言葉を伝えていた。


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