ずっと、君に恋していいですか?
一人でも過ぎて行く日々
志信が福岡支社に転勤して2か月後。

志信の元に、石田と梨花からハガキが届いた。

“結婚しました”の文字の下には、幸せそうな二人が微笑んでいる。

結局、二人の結婚式には大阪支社への出張で行けなかった。

福岡支社のSS部販売促進課に配属され、郊外のSSの担当になった志信は、今更ながら薫が大変な仕事をしていたのだと身をもって知った。

別れを告げたあの日から、薫とは一度も連絡を取っていない。

本当は心のどこかで、“やっぱりついていく”と薫が言ってくれるのを待っていた。

だけどそれは、どんなに待っても叶わない夢だった。

薫はきっと今日も、何食わぬ顔をして仕事をしているのだろう。

もしかしたら、初詣で引いたおみくじの通り、良縁で結ばれた誰かと一緒にいるのかも知れない。

あの時、薫を突き放してしまった事を、今でも後悔している。

だけどきっと、あの時別れを告げなくても、この先自分が薫にとっての一番になれる事はなかったのだと志信は思う。

今はまだ、薫を想うと胸が痛む。

好きだった、とは言えない。

薫への気持ちは、まだ過去にはできないでいる。

いつか薫に言いたかった言葉は、一度も言えずに終わってしまった。

志信は自宅の鍵を開けるためにキーケースを取り出すたび、返しそびれた薫の部屋の合鍵を見て、二人で過ごした幸せな日々を思い出す。

この鍵を外すには、いつか自然に薫への気持ちが想い出に変わる日まで、待つしかないのかも知れない。




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