ずっと、君に恋していいですか?
もう一度だけ、君を
金曜日。

志信が定時で仕事を終えて、SS部のオフィスを出たところで渚が待っていた。

「志信くん、お疲れ様。」

「ああ…お疲れ様。」

「これから飲みに行かない?」

「うん、まぁいいけど…。」

それから二人で、会社の近くの居酒屋でお酒を飲みながら食事をした。

渚はいつになく早いペースでチューハイを飲んでいる。

「そんなに飲んで大丈夫か?」

「うーん、今日は飲みたい気分なの。」

「なんかイヤな事でもあったか?」

「イヤな事っていうか…。」

渚は口をつぐんで、また勢いよくチューハイを煽った。

「もうやめとけって。」

志信がグラスを取り上げると、渚はそれを取り返してにらみつける。

「…私がどうしようが、志信くんには関係ないでしょ。」

「はぁ?自分から誘っといてなんだそれ?」

志信はタバコに火をつけて、吐き出した煙を目で追った。

店内の雰囲気は本社の近くにあった居酒屋となんとなく似ていて、志信はまた薫と一緒に何度もその店に行った事を思い出す。

(あの居酒屋…薫と一緒によく行ったな…。二人で飯食って…酒飲んで、タバコ吸って、笑って…楽しかった…。)

志信がぼんやりと薫の事を考えていると、渚はテーブルを拳でドンと叩いた。

「…なんだよ?」

「志信くんは今、誰といるの?」

「え?」

渚は志信の目をじっと見つめた。

「今、目の前にいるのは私。渚だよ。」

「…わかってるよ、そんな事。」

「わかってないよ…。志信くんは私といても、私を見てくれてない。」

志信は自分がいつも渚の向こうに、そこにいるはずのない薫の姿を探している事を、渚に気付かれていたのだと知る。

(気付いてたのか…。)

「飲みすぎだな。帰るぞ。」




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