君はオレを好きになる。
「俺ね、施設で育ったのよ。」

「施設って…」

向日葵は表情を曇らせた。

「そんな顔しないで。向日葵には知ってて欲しいんだ。」

「はい。」

向日葵は俺の真横に座ると真っ直ぐに俺を見た。

「俺は5歳の時に母親に捨てられたんだ。俺んとこ、父親居なくて未婚の母と子一人の母子家庭だったんだけど、母親っていうのがちょくちょく外泊する人だったんだけど、とうとう帰って来なくなちゃって…で、役所の人に保護されて施設行き。何日も食べてなくて最初に出されたのがオムライスだった。その時のオムライスすんげぇ美味くて、あったかくて俺ボロボロ泣いたんだ。そん時抱きしめられて、俺疲れて寝てしまうまで泣きまくった。」

「瑛斗さん…。」

「なんでお前がそんな顔すんだよ。で、オムライスは俺の大好物になったのさ!」

「すごい…プレッシャー…。」

「ははっそうだよな。期待してるわ。」

「瑛斗さん…その後お母さんとは?」

「会ってないよ。生きてるか死んでるかも知らない。俺にはもう関係ない人だから。」

「そうですか…今でも淋しくなる時ありますか?」

「もう21歳だから、ないよ。何?あったら向日葵が暖めてくれるの?」

「はい。私でよければ!」

冗談で言ったのに、こいつ必死だ…。

「じゃその時は頼むかもな。」

瑛斗は向日葵の頭をポンポンと軽く撫でた。

瑛斗は立ち上がり寝室に向かった。

一人になって高鳴る気持ちを鎮めたかった。

「寝室に居るから出来たら呼んで。」

「はい。」

リビングを出る瞬間チラッと彼女を見た。

俺に撫でられた頭を押さえ固まっている。

耳まで真っ赤にして…。

寝室に入って考えた。

もしかして向日葵は俺が、好き?

あのリアクションどう考えたって恋する乙女だろ!?

だとしたら、手っ取り早く家政婦じゃなくて彼女にした方が楽しいんじゃないのか?

いや、でも仕事に影響が出るかもしれない。

杉本さんにバレたら、どっちにしても怒られるし…。

コンコン。

ドアをノックする音にびっくりした。

「どうした?」

瑛斗はドアを開けた。

「あの…テレビ見ていいですか?」

「テレビ?いいけど…。」

「恥ずかしいんですけど、おばあちゃん家テレビなかったの。だから見たくて見たくて!」

だから俺の事知らないのか…。

「あっじゃこの家の案内するわ。」

「はい。」

殆どが自動で管理出来るようになっているので、全てを説明するには時間がかかる。

キッチンの物などは正直使ったことがなかったので、引き出しにしまってあった説明書を渡した。

リビングのカーテンは天井が高い為に自動で開閉するもので、その操作を教えた。

向日葵は見るもの聞く事が初めての物ばかりでワクワクしてる様に思えた。

何冊かの説明書を見て、キッチンからでもボタン一つでお風呂が洗えたり、沸かせたり出来る事を知って目を輝かせた。

俺は一度も使った事がない。

「ごめん。自分の家なのに家事はしないから、殆どわかんないんだ。だから説明書見ながら、そこら中いじって。」

「はい。覚えます。さっお風呂入って来てください。何分ぐらいで上がりますか?」

「20分ぐらいで…かな?!」

「あと10分ぐらいで御飯炊けるので、瑛斗さんが上がるのに合わせて作りますね。」

「うん、お願いします。」

瑛斗はシャワーを浴びながら思った。

雇主と家政婦というより、新婚みたいだなぁと。

自然に顔が緩む。

にやけ顏が止まらない。

向日葵の顔を思い出した。

向日葵を着替えさせた時を思い出した。

柔らかい肌しか思い出せない。

「もっと、ちゃんと見とけばよかった…。」

なるべく見ない様にと電気も点けず極力見ない様に着替えさせた事を、今となっては後悔しかない。

思い出そうにも記憶の中にない。

突然チャイムが鳴った。

「瑛斗さ〜ん!?聞こえますか?」

風呂場に備え付けてあるスピーカーから向日葵の声がした。

瑛斗はシャワーを止めた。

「あぁ聞こえてるよ。どうした?」

こんな機能がある事に初めて気付いた。

「サラダのドレッシング和風と洋風どっちがいいですか?」

「向日葵の好きな方でいいよ。」

「わかりました。これ便利ですね!?」

「うん。もうすぐ上がるから。」

「は〜い。」

終始ご機嫌な向日葵に、こっちまで嬉しくなる。







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