ウサギとカメの物語


須和柊平っていう男は、確かに言葉も表情も人より少ないんだけど、必要最低限のものを表に出すだけであって、それに深い意味は無いんだと思ってる。
でも、その必要最低限の笑顔とかを私に向けてくれると思うと、ちょっと、いや、まぁまぁ、いや、かなり、いや、めちゃくちゃ嬉しかったりして。
それでついつい、私まで笑っちゃうんだよねぇ。


こいつは、私のことを一体どう思っているんだろう?
やっぱりただの同期ってだけなのかな。
それはちょっと寂しいな。


周囲には身を寄せあったり、手を繋いでる恋人ばっかりで。
羨ましくなってしまったっていうのもある。


このカメ男とそういうことをするには、どうにかして気持ちを伝えなきゃならないんだよね。
いわゆる告白っていうやつ。


奈々みたいにいつか相手に告白してもらうのを待っていたら、カメ男の場合は一生待ってもそういう機会なんて訪れそうにない。
そうなると私から言わないとダメってこと。


さすがの私も、カメ男が私のことをどう思っているのかあまりにも不透明すぎて、なんだかヤツとの恋はとんでもなく時間がかかってしまいそうで怖い。


私ってどっちかって言うとせっかちな方だから。
好きになると一直線だし、早く結果が欲しいって思っちゃう。
今までの恋愛も、好きになったら1ヶ月以内には相手に告白しちゃってたし。


イルミネーションを見上げながら、やっぱりかったるそうな顔をして隣を歩くカメ男を見ていて、一抹の不安に駆られるのだった。


たぶん、こいつとどうにかなるためには、私が頑張るしかないんだな。


ヤツは大卒でうちの会社に入ってるはずだから、2歳上の29歳なはず。
年上なんだから少しくらいリードしなさいよ!
なんで私ばっかり頑張んなきゃならないわけ?
惚れた方の最大の弱み、ってのは分かってるんだけどさ。


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