Memories of Fire
「お、俺が悪かったよぉ……ちゃんと反省してる。ごめんね。俺、嬉しくて、一人で舞い上がって……俺、いつもこんなんで……」

 普通、成人男子がこんな情けなく縋り付いて来たら呆れてしまうのかもしれない。でも、捨てられた子犬のようなエルマーを見て、不覚にもキュンとしてしまう。惚れた弱みというやつなのだろうか。

「プロポーズは、やり直すから。いや、その……やり直しとか、嫌かもしれないけど、でも、俺、これくらいしか思いつかなくて……だから、もう一度チャンスをください!」

 ぐすっと鼻を啜り、必死な様子のエルマー。

「やり直しって……どうするのよ?」

 マリーはぷいっと顔を背けて、わざと低い声を出した。

 エルマーがこうやって自分を追いかけてくれるのは嬉しいけれど、簡単に許してくれると思われたくなかったから。

「あ、明日! 明日の夜、中庭で待っててほしい。夜の訓練が終わったら行くから」 
「……わかったわ」
「ありがとう! マリー、大好き!」

 マリーの譲歩を聞き、エルマーはパッと笑顔になる。彼はマリーに抱きつき、頬にちゅっとキスをすると、心底嬉しそうに軽い足取りで駆け出した。

「それじゃあ、明日! 絶対、絶対、待っててよー!」

 もげてしまいそうなくらい腕を振って走っていくエルマーを見送り、マリーは眉を下げて微かに笑いを零した。

 惚れた方が負けだなんて、よく言ったものだ。本当に、つくづくマリーはエルマーのああいう子供っぽいところに弱くて、甘くなってしまう。

「もう……バカ」

 エルマーがやろうとしていることなんて、予想がつく。一生に一度のプロポーズなのに、サプライズも何もない。それどころか”やり直し”だというのに、マリーは嬉しくて……明日の夜を待ち遠しく思うのだった。
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