Memories of Fire
 ドキッと、マリーの心臓が大きく高鳴った。

 どうしよう――エルマーから目が離せない。いつものお調子者のイメージはどこへやら……エルマーは姫を守る騎士(ナイト)みたいに見える。

 これも、マリーが望んだことだ。

 ――「エルマーは王子じゃないのに王女をお嫁にもらうのだから、姫を守る騎士(ナイト)じゃなくちゃダメよ」

 そうやって言ったのは、もう随分昔のことだ。けれど、エルマーはそれなら自分は軍人になる約束してくれた。

 その宣言通り、軍の学校へ進学もしたし、成人した今は陸軍に所属している。将来的には指揮官を任されてもおかしくない実力もある。立派にマリーを守れる男になったのだ。

 やがて、マリーの目の前までやってきたエルマーは少し照れ臭そうにはにかんだ。

「……こんばんは、お姫様」

 ぎこちなく、カチコチという擬音が当てはまるくらいの言い方だ。マリーはその台詞に一瞬ポカンとしたものの、すぐに笑いがこみ上げてきて、堪えきれずにプッと噴き出した。

「ふっ、くく……ふふっ」
「ちょっと、マリー。その反応はひどいよー」
「だ、だって……全然ダメよ、それ。騎士(ナイト)失格ね」

 クスクス笑いながら言うと、エルマーはむぅっと頬を膨らませる。それがまた可笑しくて、マリーは涙を浮かべて笑った。

 そんな彼女の様子を見て、エルマーはバツが悪そうにしていたが、しばらくしてはぁっとため息をついてその場に座り込んだ。

「もう……マリーってば……俺だって緊張してるんだから」

 エルマーはもう一度長いため息を吐き出すと、咳払いをして顔を上げた。肩膝をつき、マリーの左手を取る。
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