Memories of Fire
 ハンナも、最初は両親が決めた結婚だから、適当に付き合えばいいとしか思っていなかった。でも、ジークベルトの練習を見たり、デートをしたりするうちに、彼の真面目さに惹かれた。

 ハンナが王女だからと遠慮している律儀な部分も含めて、好感が持てたのだ。自分の権力や地位を上げるために縁談を受けたわけではないのだと思えたから。

「ジークベルト様が、そう言われた理由はお聞きになりましたか?」
「そ、それは……」

 昨夜、ハンナはジークベルトの話など聞かず、一方的に「嫌なのでしょ」と怒ってしまった。口ごもったハンナを見て、フローラはふふっと笑う。

「では、ジークベルト様が帰ってきたら、お話することから始めたらいかがでしょうか? ヴォルフ様と私も……きちんと話をしたら、解決したことはたくさんありました」
「……そうだな」

 フローラがヴォルフに同意を求めて視線を向けると、彼はふぅっと息を吐き出して頷く。

「まぁ、とりあえずさ、ジークがハンナと結婚したがってるのは間違いないから。ってか、完全にその先を見てるよね。あーもう! ジークの気持ちがわかりすぎて、俺はむずむずするよー」
「まったく、ジークベルトも回りくどい奴だな。お前の軽さをわけてやりたいくらいだ」

 男性陣は何やら納得しているようだが、フローラとハンナは、昨夜に続き、再び疑問の表情で小首を傾げた。
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