Memories of Fire
「ジーク。あのね……私のこと……」

 好き?――と、その一言が喉の奥に詰まる。二人の婚約に当人の意志はなかったのだから、その質問自体がおかしいだろう。

「あの……わ、私との結婚、嫌になったなら、それでもいいの。お父様たちのことは、私に――」
「そんなことはない」

 珍しく、ジークベルトがハンナの言葉を遮る。

「俺は、お前と結婚するよ。そうじゃなかったら、こんなに長い間、待ったりしない」
「……っ」

 鼻の奥がツンとして、ハンナは頬を伝った涙を拭った。

「ハンナ。東地区のコンサートから帰ったら……お前と過ごしたい」
「へ……?」

 思わぬ言葉に、ハンナは呆けた声を出す。

「城に会いに行くから……話は、そのときにする」
「え、えっと、明後日よね? お昼くらいならランチとお茶、どっちを――」
「いや、夜……行く」

 トクンと心臓が大きく鳴る。ジークベルトが自分からハンナと過ごしたいとはっきり口にしたことなんて今までなかった。それが、急に、それも「夜に行く」なんて――それは、城に泊まってくれるということなのだろうか。

「いいよな?」

 普段とは違って、ジークベルトはハンナの返事は関係ないと言わんばかりの口調だった。ハンナはドギマギしつつ「うん」と答える。

「じゃあ……また、な。おやすみ、ハンナ」
「おやすみさない……」

 人差し指の炎を消した後、ハンナはベッドに横たわった。

 しかし、速くなった鼓動はなかなか収まってくれず、ハンナは眠れない夜を過ごす。

 明後日の、ジークベルトの帰りを楽しみに――
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